『AIが拓く土木の未来』
 札幌市立大学AITセンター センター長・教授 高橋尚人

第3次AIブーム

 人工知能(Artificial Intelligence: AI)は、私たちが生活を営み、より良い社会を目指す上で欠かせない存在となっています。人工知能研究の歴史は古く、はじめて人工知能“Artificial Intelligence”という語が使われたのは1956年のダートマス会議でした。人工知能研究は順風満帆だったわけではなく、ブームと冬の時代を繰り返し、現在は3回目のブームを迎えています(図1)。人工知能研究にブームと冬の時代があったのは、人工知能に対する期待と実際に人工知能ができることに乖離があったからですが、2000年代にはじまった第3次AIブームは現在まで続いています。
 第3次AIブームの背景には、「ディープラーニング」(深層学習)の登場があるとされていますが、ディープラーニングによりAIの技術開発と実用化が進んだことにより、さらにAIブームの勢いが加速しています。

図1 人工知能(AI)の歴史(出典:総務省「平成28年版情報通信白書」

人口構造の変化

 土木分野で解決すべき様々な課題があると思いますが、やはり、人口構造の変化への対応が大きな課題になると考えられます。我が国の総人口は、2008(平成20)年の12,808万人をピークに、2011(平成23)年以降は一貫して減少しており、2065(令和47)年には8,808万人になると推計されています。
 また、65歳以上人口は増加傾向が続き、2042(令和24)年に3,935万人でピークを迎え、それ以降は65歳以上人口が減少に転じますが、高齢化率は上昇を続け、2065(令和47)年に38.4%に達すると推計されています。一方、生産年齢人口(15〜64歳の人口)は、1995(平成7)年に8,716万人でピークを迎えましたが、その後減少に転じ、2065(令和47)年には4,529万人になると推計されています。

図2 日本の人口の推移と将来推計
(出典:総務省「令和4年版高齢社会白書(全体版)」

 生産年齢人口の減少に伴い、労働力不足は深刻さを増すと予想されます。建設業は、医療・福祉と並んで人手不足感が特に強い分野になっています(図3)。人手不足は、残業時間の増や休暇取得数の減少、働きがいや意欲の低下、離職者の増加など職場環境に影響を及ぼしており(図4)、生産年齢人口の減少に伴い、人手不足の影響が顕著になっていくと考えられます。

図3 産業別正社員等労働者過不足状況(出典:厚生労働省「労働経済動向調査(令和4年11月)」

図4 人手不足が職場環境に及ぼす影響
(出典:厚生労働省「令和元年版労働経済の分析(令和元年9月27日閣議配布)」

AIが拓く土木の未来

 高齢化が進み、労働力が不足する中、より少ない労働力、より少ないコストで、老朽化が進む社会資本を維持・管理・更新できるようにAIを含むテクノロジーを活用していくことが必要になります。
 土木分野では、i-ConstructionをはじめとしてAIやICTを活用する取り組みが進んでいますが、AIの導入・活用という点で、土木は大きな可能性を持っている分野です。第3次AIブームではディープラーニング技術が発達していますが、中でも目覚ましい進歩があった代表的な技術として「画像認識」が挙げられます。画像認識は、「画像の中に何が写っているか」を認識する技術ですが、ディープラーニングの登場により認識精度が一気に高まり、2015年には人の認識精度を超えました。また、画像認識を応用した物体検出も進歩が目覚ましい技術です。物体検出は、「画像のどこに、何が写っているか」を検出する技術で、コンピューターの性能向上とプログラム改良によって検出スピードが速くなり、実用性の高い技術になっています。
 画像認識技術の進歩により、まさに「AIが眼を持った」のですが、土木分野では、目視で観測・評価している点検や検査、調査や異常検知などに適用が可能です。ディープラーニングは、データを学習することで特徴量を自ら抽出できるようになるので、目的に応じた画像データを用意して画像認識や物体検出AIモデルを構築し、人が行ってきた点検等をAIに置き換えることが可能になります。また、打音検査のように聴覚で判断する検査も、打音データを図化したりスペクトル画像にすることで画像認識技術を適用できるようになるため、AIを活用できる場面が飛躍的に増えると考えられます。
 図6は物体検出の応用例で、物体(車両)の検出に加え、車両の走行速度を算出し、画像中の黄色の線を通過した車両台数をカウントするようプログラムを改良したものです。プログラムを動かすコンピューターとCCTVカメラがあれば交通調査ができ、交通障害などの異常検知もAIに画像の監視を任せることが可能です。
 AIの導入では、モデル構築および運用のためのデータ取得が課題になる場合が多いのですが、国土交通省ではCCTVカメラを多数設置していますし、ドローンの活用も進んでおり、データを取得できる仕組みが充実しています。このことを強みとして活かし、画像認識や物体検出をはじめとしてAIを適用する場面を積極的に増やしていくことを期待しています。

図5 物体の検出例(左:元画像、右:物体検出プログラムで処理した出力画像)

図6 物体検出技術を応用した交通調査の例
(出典:Vehicles speed calculation with real-time YOLO v4


札幌市立大学AITセンター センター長・教授 高橋尚人 略歴
1991年北海道大学工学部土木工学科卒業後、北海道開発庁(現・国土交通省)入庁。2019年7月より札幌市立大学地域連携研究センターAIラボ特任准教授。2022年4月より現職。
博士(工学)、技術士(総合技術監理部門、建設部門)