防災と土地利用
「光陰矢の如し」とは、今時の若者には死語なのかもしれませんが、時のたつのは光のように早いという諺です。
先日3月11日は東日本大震災から丸10年で、テレビで様々な特集番組が放映されていましたが、もうあれから十年と感慨深い思いでした。震災復興は着実に進んでいるようですが、その進捗状況は地域ごとに見るとバラバラで、また被災者の心の問題や復興予算の今後など、様々な残された課題も紹介され、考えさせられました。
また、改めて10年前の巨大津波の映像を見るとその圧倒的な脅威に身震いし、美しい海岸線を覆い隠す防潮堤の巨大なコンクリート壁の建設もやむなしと理解しつつも、失われた風景を残念に思う気持ちは残ります。
そういう意味では、これまで重点が置かれてきた災害リスクの軽減対策、すなわち構造物により災害被害を防ぐというハードの整備だけではなく、回避対策、すなわち都市計画や地域計画により土地利用を調整して危険な地域に人を入れないというソフトな対策の進展が望まれます。
これまでは人口が年々増加し、都市に急激に流入していましたので、都市計画区域を拡大せざるを得なかったのですが、人口減少時代に転じて、防災という観点からの土地利用規制が一般市民の理解も得られるようになり、都市計画法の改正により、災害リスクの高い災害ハザードエリアに指定されたエリアでの開発を抑制し、エリア内の既存住居の移転を財政支援する制度が整備されました。
この災害リスクの回避対策として、欧州では土地利用規制と保険とを連動させて規制の実効性を高める取り組みが始まっています。
英国では、3段階の洪水危険度に応じて立地できる土地利用を限定した上で、保険業界と住宅金融業界と連携して災害危険度に応じた保険料率、住宅融資利率の設定とし、開発事業者の危険な場所で開発しようとした場合の開発リスクや経済的負担を制度的に高めて、その阻止を図っています。
また、フランスでは、洪水だけに留まらず、地滑り、雪崩、山火事、地震、噴火、サイクロンといった予見可能とされる自然災害すべてを対象とした防災土地利用規制(PPR)を制度化し、通常の都市計画とは別に災害防止だけを目的とした都市計画の策定を義務付けています。そして、英国と同様に保険制度との連動させているのですが、政府が民間の保険会社の自然災害保険に無制限の保証(再保険)を与えてバックアップしています。
再保険と言えば、世界最大級で最古の保険の保険市場「ロイズ(ロイズ・オブ・ロンドン)」が有名ですが、近年、経営危機に陥っています。その原因はいろいろ挙げられていますが、直接的な原因は1997年頃から多発した世界的な異常災害とされており、このフランスの政府保証は民間保険会社のリスク回避という面で大きな意味を持つと言えそうです。
ちなみに、ロイズの発祥は1688年頃、エドワード・ロイドがロンドンで開店したロイズ・コーヒーハウスで、店にたむろしていた貿易商や船員などのために海事ニュースを発行したところ再保険(保険引き受け)業者が集まるようになり、海上保険を扱う市場へと発展したとのことです。
東日本大震災の復興まちづくりでは、住民の合意形成がとても重要な課題となり、話がまとまった地域では復興が進む一方で、意見が分かれて話し合いが進まず頓挫しているケースもあるようです。
コーヒーハウスでロイズが結成された欧米のコーヒー文化に対して、日本はさしずめ囲炉裏を囲んでとか茶店での茶飲み文化、大広間での酒盛りといったノミニケーションがコミュニケーションの原点なのかもしれません。
高台に綺麗な町はできあがったのに住民の半分は他の地域に移っていなかったという話もあります。
災害復興にしても災害に強い土地利用への誘導にせよ、住む人たちの気持ちに寄り添い、コミュニティの絆を固く保てるよう、それぞれの地域事情に合わせたコミュニケーション重視のプロセスを丁寧に積み上げていきたいものです。
2021年3月第2号 No.94号
(文責:小町谷信彦)