災害の雑学
毎年、日本漢字能力検定協会が、「今年の漢字」を全国から募集しますが、2018年の最多応募は「災」(わざわい)でした。北海道胆振東部地震をはじめとした各地での地震、西日本豪雨、台風21号、24号の直撃、記録的猛暑など、災害に明け、災害に暮れた一年と感じた方々が多かったのでしょう。
さて、「災」にまつわる雑学、その1。皆さんは、「災」の語源はご存知ですか?
ヒントは、象形文字。勘が良い方はもうピンときたかもしれませんね。
上の「く」が三つ横に並んだ部分は「川の氾濫を堰き止めるために建てられた良質の木」、下の「火」の部分は「燃え立つ炎」を表しているようです。漢字の元祖、古代中国では、水害と火事が災害の代表選手だったのでしょう。
一方、日本では「地震、雷、火事、おやじ」とよく言いますが、洪水が入っていないのは不思議と言えば不思議です。
それでは、英語の場合はどうでしょうか。
「災」(災害)は、disaster(ディザスター)ですが、dis(ディス=離れて)+ a ster(スター=星) から「幸運の星から離れることで起きてしまう事象」が語源とのこと。ちょっと神秘的で、ロマンチックな雰囲気すら漂わせるこの語原、実は占星術と密接に結びついた言葉だったのです。
現代でも嘘か本当か定かではありませんが、政策を決めるのに占星術師を招いたという独裁者の話もあるように、占星術は太古の昔から連綿と続いてきました。その起源は、大規模な天体観測が行われていた紀元前2000年の古代バビロニアまで遡り、そこからギリシャ、インド、アラブ、ヨーロッパ、中国と文字通り世界中に伝播したとも言われています。
余談ですが、ケプラーの法則で有名な天文学者ケプラーは、占星術師でもあったそうで、占星術で生活費を稼いでいたとのこと。彼が占星術を単なる金儲けの手段としていただけなのか、本当に信じていたのかは、学者の間でも見解が分かれる謎なのだそうです。
現代では、さすがに占星術で災害を予測しようという科学者は皆無ですが、占星術と同様に天体の運行に注目して、災害の原因となる異常気象との関係性を解明しようという研究が科学的に行われています。
日本でもしばしばニュースで話題になるエルニーニョ現象(ペルー沖の海域の海水温上昇)は、発生のメカニズムがいまだ不明ですが、月の潮汐力が熱塩循環に影響を及ぼして発生している可能性があるという研究発表もあり、今後の研究の進展に期待したいところです。
では、雑学その2。皆さんは、「エルニーニョ」の意味はご存知でしょうか?
この発音の感じと発生地がペルー沖ということから、スペイン語では?と思われた方はご名答です。エルニーニョ現象が12月のクリスマスの頃に起きることが多いことから、スペイン語の「イエス・キリスト」を意味する「エルニーニョ」と名付けられたそうです。
一方、エルニーニョとは逆に海水温が低下する「ラニーニャ」はというと、同じくスペイン語で「女の子」という意味だそうです。これは「エルニーニョ」に「男の子」という意味もあることから、対をなす「女の子」と命名されたようです。「男の子」でも「女の子」でも、いずれにしてもありがたくない現象ですが。
ところで、私達がよく口にする「天災は忘れた頃にやってくる」という格言は、明治時代の著名な科学者寺田寅彦の言葉とされてきましたが、実はそれを裏付ける文書や記録は残っていないそうです。防災に関する随筆で同様の趣旨のことが書かれていたものを、彼の弟子の中谷宇吉郎(世界初の人工雪製作者)が師の言葉として広めたということのようです。中谷宇吉郎はコピーライターを業としても大成したかもしれません?
しかし、最近なら「天災は忘れる間もなくやってくる」と言い換えた方がよいくらい、天災が頻発しています。この現象を「そこからここへと食糧不足や地震がある」という聖書が預言している「終わりの時」の予兆と考えるかどうかは各々見方が異なりますが、「災いを見て身を隠すものは明敏である」という教えに従って、備えに万全を期す必要はありそうです。
とはいえ、「足の速い人がいつも競争に勝つわけではない。なぜなら、思いもよらないことがいつ誰にでも起きるからだ。」とも言われているように、身を隠すひまもない災いに遭遇することもあるかもしれません。
思い通りに行かないのが人生の常、そんな諦めが時には必要、と人生のたそがれ時にしみじみ思う今日この頃です。
(文責:小町谷信彦)
2019年3月第2号 No.54