絵画に見る橋 その1 西洋画編
絵画に橋が登場するようになったのは、いつの時代からでしょうか?
私は絵画の専門家ではないので知る由もありませんが、ルネッサンス期の画家ジョルジョーネの「テンペスタ(嵐)」には、リズミカルな5径間の桁橋が描かれています。
その橋は川とともにカンバスの真中に配置され、左下に長い杖か槍のようなものを持った男性、右下に乳児に乳を与える母、そして橋の背後には石造りの家並みと稲妻が光る怪しげな黒雲という斬新な構図となっています。人物が中心の宗教画が全盛だった当時としては革新的な絵画で、西欧美術史上最初の風景画として弱冠33歳の若さで世を去った天才画家が後世に名を遺す所以となりました。
時代は下って19世紀の初頭、イギリスを代表する風景画家コンスタブルの「エセックスのウィヴァンホー庭園」にも小さな橋が登場します。野原で草を食む牛、池の小舟で釣り糸を垂れる農夫らしき人。長閑な田園風景の風情に小橋がアクセントを添えています。
自然への回帰、田園賛美といった潮流に乗って、イギリスで風景式庭園が全盛となった時代の空気が感じ取れる作品です。
さて、橋と言えば印象派の巨匠の作品を連想される方も多いかもしれません。
まずは、ゴッホの有名な「アルルの跳ね橋」。
跳ね橋を渡る荷馬車と川で洗濯する女性達の明るい陽光の下での田舎感が印象的です。ただ、残念なことにこの跳ね橋は、1930年にコンクリート橋に架け替えられてしまったとのこと。残しておけば一大観光スポットになったのに惜しいことをしましたね。
続いて私が大好きなモネ。「睡蓮の庭・緑のハーモニー」は、浮世絵に心酔して自分の庭に作った和風の太鼓橋がメインモチーフとなっています。
他にも「アルジャンテュイユの橋」「ハンプトンコートの橋」「ウォータールー橋」と橋のオンパレード。アーチ橋は絵になりますよね。特に石造りは。
速足で巡ってきた西洋絵画「橋の旅」、ラストにご紹介したいのは、現代社会に蔓延している閉塞感や不安に相通じるものを1世紀前の世紀末に表現したムンクの作品「叫び」。
ゴッホの原色やモネの明るい光は、近代化が人類に明るい未来をもたらすという希望の反映だとすると、一方、ほぼ同時代に生きたムンクの「叫び」に内在する闇は、不幸な生い立ちやノルウェイの侘しい陽光と相まって、近代社会の負の側面の鏡だったのかもしれません。
「叫び」の重要な舞台装置となっている橋は、人道橋と思しき木橋。吸い込まれそうに渦巻く水面に立つ木橋は何となく頼りなく不安を煽ります。堅牢なコンクリートの車道橋では「叫び」の世界は生まれないのです。
絵の中の橋は十人十色ならぬ十橋十色。色々なことを語りかけているような気がします。
(N.K)