アーチ橋と虹
以前のコラムで日本三名橋を話題にしましたが、それは何故かすべてアーチ橋。
また、世界の三名橋とされるハージュー橋(イラン イスファハーン)、ポンテヴェキオ橋(フィレンツェ)、盧溝橋(北京)、どれもアーチ橋です。
一方、風化や海蝕によって自然の造形としてアーチ状の奇岩が生まれることがあります。、その多くが観光名所になっていることを見ると、人工か天然かを問わず、人間はアーチ曲線に美しさを感じる生き物として創られたのかもしれないと思ってしまいます。
皆さんは、観光旅行で断崖が迫った景勝地の海岸をバスで走った時にアーチ状に穴が開いた奇岩を観たことがありませんか?
米国では規模壮大で、アーチーズ国立公園(ユタ州)には、その名の通りアーチ状に風化した岩が、西部劇に出て来るような赤茶けた岩山の中で2000以上も観られるそうです。
特に有名な“デリケートアーチ”は、4階建てに相当する高さ14mの巨大な奇岩で観光客必見のスポット。
同じく米国ユタ州にはレインボーブリッジ国定公園という公園名にもなっているその名も“レインボーブリッジ”と呼ばれる長さ70mのアーチ状の奇岩が人気だそうです。
虹のような美しいアーチという意味を込めたネーミングなのでしょう。
しかし、我々日本人の多くが知っている東京湾岸の長大橋“レインボーブリッジ”は、アーチ橋ではなく吊り橋なのに何で“レインボーブリッジ”とも思ってしまいます。
デリケートアーチ(出典:ウイキペディア)
レインボーブリッジ(出典:ウイキペディア)
やはり虹と言えばアーチをイメージするのが自然ではないかと思うのですが、それは虹の語源からも確かめられます。
まずは英語“Rainbow”の語源ですが、”Rain”+”Bow”、すなわち、「雨の弓」の意味。
一方、フランス語では、”arc-en-ciel”(アルカンシェル)と言い、これは「空に掛かるアーチ」という意味なのだそうです。
日本語の「虹」の語源についても調べてみましょう。
そもそも、この美しい自然現象になぜ虫偏が付けられたのでしょうか?
その源は、古代中国に遡ります。大蛇が天に昇って龍になるという昇竜伝説が由来で、龍になる大蛇が天空を貫いた時に虹が空に作られると考えられたようです。
それで、虫偏が蛇を表し、「貫く」とか天地を「つなぐ」といった意味の「工」が組み合わさって「虹」になったというわけです。
ちなみに、日本では虹は平和や幸福のイメージと重なっているように思われますが、古代の中国では虹は良くないことが起きる予兆、不吉なものと信じられていたようです。
文化や歴史の違いで受け取り方は様々なのですね。
余談ですが、虹は七色が世界の常識だと思ったら大間違いなのです。
米国では、6色、ドイツでは5色、アジアでは2色もあれば3色もあり、バイガ族に至っては赤黒の2色としてしか認識していないというのですから色の捉え方にも色々な世界があるものです。
さて、虹については、今から3500年も前に書かれ、現代でも読み継がれている世界のベストセラーにも記述があります。それは旧約聖書で、創世記に「虹の契約」として神がノアと交わした契約の話が登場します。そこで虹は、「ノアの箱舟に乗って生き残った生き物すべてが二度と洪水で滅びることはない」という神の約束のしるしとして空に掛けられたものとされています。
虹は、未来とか夢といったポジティブなイメージで語られることが多いように思いますが、聖書の世界でも虹は、人々に安心感を与え、平和を暗示するものなのです。
多くの人がアーチ橋に魅せられるのは、虹のイメージと重ねて、明るい希望や安心感を無意識のうちに感じ取っているからなのかもしれません。
(文責:小町谷信彦)
2020年2月第1号 No.69号