建設DXと“START THE CHANGE”
昨今、DXという文字があちこちで目に付きます。浅学な私は初め「デラックス」の略字なのかと思ってしまいました。そもそも「デラックス」自体が旧人類語で、若い方々はむしろDXからマツコデラックスを連想するのかもしれません。
もちろん皆さんは、DXはDigital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)の略語ということをご存知の方が多いと思いますが、ではなぜ DTではなくDXと略されるのか疑問に思われませんか?
Transは「横切る」という意味があり、「横切る」の同義語Crossには×印という意味も含みXと略されることから、TransもXと略されるようになったとのこと。日本でも最近の若者言葉には理解不能な略語が多々ありますが、Trans=Xは日本ではなじみがありませんが英語圏では普通に使われているのだそうです。
さて、DXブームの火付け役になったのは経済産業省のDX推進ガイドライン(2018年策定)なのですが、DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用し、顧客や社会ニーズを基に、製品、サービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」と定義されています。要するに、デジタル技術を活用した業務改革、組織改革全般をDXは包含し、建設業に適用したのが本題の「建設DX」ということになります。
建設業界では、国土交通省の指導により測量から調査・設計、施工、検査、維持管理・更新まで全てのプロセスでのICT(情報通信技術)の活用により土木分野の生産性向上を図るi-Constructionの導入が先行しましたが、新型コロナ感染防止の観点から遠隔臨場やテレビ会議が一気に進み、5G(第5世代移動通信システム)の商用サービスの開始により、遠方からの重機操作も現実のものとなりつつあります。
そして、国交省は2025年度までに全ての直轄事業(国の発注工事)でBIM/CIMの活用を義務付ける方針を打ち出し、生産性向上のための改革を加速させています。
さて、建設DXの基幹技術の一つ3Dプリンターへの期待が高まっています。
3Dプリンターの活用は、工場生産を可能にし、工期の短縮や施工の効率化が図れるだけではなく、これまで施工不能だった複雑な曲線や中空を取り込んだ構造物も施工可能になるためデザインの自由度が飛躍的に高まるというメリットもあります。
そして、3Dプリンターの開発が進んでいる海外では、米国企業が小規模な住宅を作り、土木分野でも中国の精華大学の研究チームが長さ26mのアーチ橋の築造に成功しました。残された課題である積層モルタルの強度不足に対応した補強対策(鋼製ワイヤの埋め込み、合成繊維や鋼繊維を使ったコンクリートの開発等)や現場条件に応じたコンクリート品質の確保(気温や湿度に合わせた微妙な配合の調整ノウハウなど)が解決されれば、本格的な現場での活用が始まることでしょう。
一方、日本の建設会社も大林組が「3Dプリンターでなければ実現できない」大きな波のような形のベンチを制作し、大成建設は建設機械レンタルの大手企業やセメント会社等と共同でセメント系の大型建設3Dプリンターを開発するなど、しのぎを削っています。将来的には、橋梁の下部工事の現場では巨大な建設3Dプリンターが何台も自走で行き交い、コンクリートを積層して橋台や橋脚を構築するという風景が普通に見られるようになるのかもしれません。
もう20年くらい前に「ドッグイヤー」という言葉が流行ったことがあります。犬の寿命は短くて犬の1年は人間の7年に相当することから、目まぐるしく変化する当時のIT業界を形容して用いられた言葉でした。
そして、最近ではさらに短命なネズミに例えて「マウスイヤー」とも言われるようです。
この激しい世の中の変化は、IT業界のみならずグローバル化した世界全体を覆っているのかもしれません。
私達はネズミのように18倍のスピードで生きる必要はありませんが、大きな時代の変化点の真っただ中にあって、いやおうなくその流れに乗るしかなさそうです。
私どもの会社では、新たに始まった遠隔臨場(ウェアラブルカメラからのリアルタイム映像配信により遠隔の事務所で現場確認や検査)やCCUS(建設キャリアアップシステム)を2020年度の全ての工事で導入しました。
そして、“START THE CHANGE” と銘打ち創業85年となる2020年を百年企業に向けてのスタートの年と位置付け、「建設DX」に積極的に取り組んでいく方針としています。
2020年は新型コロナウイルスとの暗闘という人類にとって大変な年となってしましましたが、それでも多くの技術や知見で困難を乗り越えていくのが私たちです。
情報社会と言われる現代において、人類史に残るほどのインパクトのある仕事は土木の世界からはあまり生み出されないのかもしれません。しかし、どんなにバーチャルの世界が広がったとしても、私たちのリアルの日常生活を支えるインフラは空気と同様に不可欠なものです。
“CHANGE” を合言葉に、デジタルという新兵器を携え、アフターコロナに輝く北海道を目指し、共に肩を並べて進んでいきたいものです。
(参考文献)「建設DX デジタルがもたらす建設産業のニューノーマル」 発行 日経BP ;著 木村駿
2020年12月第1号 No.88号
(文責:小町谷信彦)