ひと昔前、盛んだった日本人論はいつ頃からか下火になりましたが、若者を世代という切り口で論じる「世代論」が廃れることはないようです。
おそらく終戦直後のベビーブーム世代を堺屋太一氏が「団塊の世代」と総称したのが世代論の走りかと思いますが、時代時代の社会・経済状況を反映して次々と特徴ある世代が生まれてきました。1960年代生まれの「新人類」はバブル時代に成人を迎え「バブル世代」、その後のバブル崩壊で深刻な就職難に直面した「団塊ジュニア世代」は「就職氷河期世代」、1980代以降生まれで世紀を跨ぐ「ミレニアル世代」は「ゆとり教育」の落とし子「ゆとり世代」と命名されました。
戦後の世代史を振り返ると次は第5世代。どういう若者世代が登場するのか興味深いところです。
さて、携帯電話の世界でも第5世代(5G;超高速・大容量移動通信システム)が話題になっていますが、第1世代(1980年代)のアナログ携帯から僅か40年という早送りの世代交代はまさにドッグイヤーの時代を象徴しています。
他方、もっと壮大な時空スケールでの第5世代論も注目されています。
それは人類社会史という観点での未来社会のコンセプト ”Soceity 5.0” です。
日本政府が第5期科学技術基本計画(2016~2020年度)で提唱したもので、狩猟社会(Soceity 1.0)、農耕社会(Soceity 2.0)、工業社会(Soceity 3.0)、情報社会(Soceity 4.0)に続く第5世代社会です。
具体的には、「IoT(Internet of Things;モノのインターネット)で全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな知識を生み出すことで、これまで十分に対応できなかった課題や困難を克服する」(内閣府HP)社会とされ、農業、エネルギー、医療、福祉など、社会のあらゆる分野でIoT、ロボット、人工知能(AI)、ビッグデータが活用される「超スマート社会」(平成28年度科学技術白書)のイメージです。
出典:内閣府 Society 5.0 - 科学技術政策 - 内閣府 (cao.go.jp)
出典:内閣府 Society 5.0 - 科学技術政策 - 内閣府 (cao.go.jp)
それでは ”Soceity 5.0” に土木事業はどう対応したら良いのでしょうか?
土木事業は、農耕社会(Soceity 2.0)において農地に水を引く用水路や水害を防ぐ堤防を人力や牛馬を利用して作るところからは始まりました。それが工業社会(Soceity 3.0)に変わると、建設機械により大規模な工事を効率的に行えるようになり、さらに情報社会(Soceity 4.0)の到来とともに建設機械の自動化やITを活用した新技術が導入され、現在では測量から設計、施工、検査まで一気通貫でデータ処理できる情報通信システム ”i-Construction” (i-Con) が工事の一層の省力化・効率化を実現しつつあります。
出典:国土交通省 https://www.mlit.go.jp/common/001137123.pdf
そして本題の「ソサエティ 5.0 時代の土木事業」ですが、国土交通省が令和2年度から取り組んでいる「インフラ分野のデジタルトランス・フォーメーション(インフラDX)」にその未来像の垣間見ることができます。(国土交通HP 技術調査:インフラ分野のDX - 国土交通省 (mlit.go.jp) )
このインフラDXは、工事にロボットやAIなどを活用して現場の安全性や効率性を向上させるだけではなく、国土交通行政に関わる行政手続きの変革やデジタルデータを活用した仕事のプロセス・働き方の改革といった関連行政サービス・建設産業の変革も含んだ広範な施策なのですが、ここでは特に災害復旧工事を例に工事がどのように変わるかをご紹介します。
遠隔対応拠点(DXルーム)で本部スタッフ・専門家が被災現場の現地状況をリアルタイムで衛星、防災ヘリ、ドローン等の3次元データ等で把握し、CIMモデルを活用した災害復旧工法を検討、現場スタッフを技術支援。現場では建設機械オペレーターが危険区域に立ち入ることなく5Gを使用する自律運転機械により無人で災害復旧工事を実施。施工データは全てデジタル情報で効率的に工事管理。ざっとこんなイメージです。
また、現在大きな課題となっている橋やトンネルの老朽化対策に関しても、AIの活用により構造物の損傷・変状判断に要する膨大な作業を大幅に省力化・効率化できると期待されています。
土木工事は施工する場所により条件は千差万別で変化する気象条件にも左右されるなど、一定条件下での工場生産とは異なる、言わば一品物の特注生産。それが経験工学とも言われる所以なのですが、デジタル技術の進化は膨大な現場情報の収集・分析を可能とし、ビックデータが工事の様相を一変させるかもしれません。
ある意味、道具が日進月歩で賢くなりすぎて、使い手が追いついていく大変。
我々の知恵が試される時代とも言えそうですが、明るい未来を拓くために、上手に使いこなしていきたいものです!
2021年4月第2号 No.96号
(文責:小町谷信彦)