最近、3K(きつい、危険、汚い)というフレーズを以前より耳にしなくなったような気がしますが、新語としての賞味期限切れで使用頻度が減っただけなのか、建設業界が国土交通省と連携して進めている働き方改革、「新3K(給与・休暇・希望)」が功を奏したのかは定かではありません。ただ、一度持たれた悪いイメージは、中身がかなり改善されても、完全にイメージが変わるまでには地道な努力と時間を要するに違いありません。
水が半分入ったコップを「半分しかない」と見るか「半分もある」と見るかでは大違いで、ネガティブな目で見ると3Kが5K、6K、7Kと問題だらけに見えてくるものです。
手前みそで恐縮ですが、弊社ではこの悪いKを真逆に反転させた「ニュー6K」(給料が良い、休暇が多い、危険回避、絆、きれい、カッコいい)を2017年から掲げ、働き方改革とDXの推進を両輪とする変革 ”START THE CHANGE” に取り組んでいます。
とりわけ「きれい」と「カッコいい」を建設業のイメージアップのポイントと考え、「美しい建設業」の「スマートな会社」を目指しています。そして、「美しい建設業」の1丁目1番地、整然とした美しい工事現場は、工事の安全にも直結するという認識から、資材の整理整頓、現場清掃、船出方式(前向き)駐車などを徹底するとともに、構造物の仕上げの美しさへの職人的なこだわりを創業者以来の伝統として大事に受け継いでいます。
さて、「美しい建設業」というフレーズから「美しい国、日本」を連想した方もおられることでしょう。
「美しい国、日本」は、ご存じの通り2006年の第1次安倍内閣で安倍晋三首相が国家像として宣言した言葉ですが、「美しい」という言葉には、年代・性別、主義主張、経験、環境を越えて、私達日本人の心に響くものがあるように感じます。
日本の歴史を振り返ると、江戸時代の中期以降、江戸は人口100万人の世界最大の都市だったと言われていますが、同じく大都市だったロンドンやパリが汚物にまみれ、飲み水に事欠き、伝染病の蔓延にも悩まされる醜悪な町だったのとは対照的に、衛生的で環境に配慮された美しい町だったようです。
また、明治時代のはじめに世界中を旅した英国人の旅行作家イザベラ・バードは「日本奥地紀行」の中で、山形県の置賜地方の田園地帯を「東洋のアルカディア(桃源郷)」と評し、その美しさを絶賛しました。
江戸の町といい、「実り豊かな微笑する大地」と形容された米沢平野といい、当時の我々の先祖が築き上げた国はとにかく美しかったのです。
さらに時代を遡り日本書記に目を転じると、天照大神(あまてらすおおみかみ)が伊勢の国を「辺境だが美し(うまし)国なので鎮座しよう」と皇女倭姫命(やまとひめのみこと)に神託を下し、伊勢神宮を創建させたという話が登場します。興味深いのは、「美し(うまし)」は美味しいとか美しいという意味の他に「満ち足りた良い国」という意味があり、海や山の自然に恵まれ、心が満たされる地域という意味で使われていることです。
日本人は欧米人とは異なる独特の美意識を持っていると言われますが、国造りについても私達は優れた美意識を発揮していたのです。
これからの建設業は、その伝統的な美意識を存分に発揮して、これまでのように環境破壊とそしられることなく、「美し国造り」と評されるようになりたいものです。
そして、目に見えるものだけではなく、仕事のやりがいや職場の人間関係といった目に見えないものも美しく、「心が満たされる」産業へと成長させていきたいものです。
2021年12月第2号 No.111号
(文責:小町谷信彦)