“CN”という文字を最初に目にした時、これは何?と戸惑ったのは私だけではないかもしれません。菅総理が2020年10月の臨時国会で「2050年カーボンニュートラル宣言」を行ってから、「脱炭素」を意味する「カーボンニュートラル」(略称CN)は、温暖化防止のために世界が目指すべき共通目標として、メディアで頻繁に話題として取り上げられるようになりました。
この「2050年カーボンニュートラル宣言」では、2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46パーセント削減することとされていますが、そのための主要施策の一つとして「カーボンニュートラルポート(CNP)」が提案されています。
CNPは、脱炭素エネルギーである水素やアンモニア等の輸入拠点となる港湾の役割に着目し、港湾地域において脱炭素に向けた先導的な取組を集中的に実施するもので、現在、神戸港や名古屋港など、全国6地域の港湾が選定され、検討が進められています。
さて、残念ながら北海道にはCNPに選定された港湾はありませんが、釧路港でカーボンニュートラルに貢献する興味深い取組が進められています。
釧路港では、従前から大型船が入港できるように港内の水深を維持するために浚渫(しゅんせつ:港の海底に溜まった土砂の掘り上げ)が定期的に行われていたのですが、浚渫土を沖合の防波堤の港内側に堆積して、水深1m~3m程度の浅場を造成し、藻場(もば:海藻類や魚類の生息の場)を創出するプロジェクトが注目を集めているのです。
これは北海道開発局と寒地土木研究所が連携して実施しているもので、整備完了から約10年が経過した試験区間3,600㎡で令和3年に環境調査でスジメやガッガラコンブ等10種類以上の植物、メバルやカジカ等の魚類のほか、ハナサキガニ等の生息が確認されました。
(出典:国土交通省北海道開発局HP 記者発表資料(令和4年3月8日))
では、このプロジェクトの注目点は何かと言うと、海藻や植物プランクトンの働きで大気中から海中へ吸収された二酸化炭素由来の炭素、いわゆる「ブルーカーボン」は数千年にわたって海底泥中で炭素を貯留することから、世界的に炭素の貯蔵庫として注目を集めているのです。
実際、釧路港の試験区間のブルーカーボンは約1.9t程度と試算されるのですが、森林と単位面積当たりの吸収量で比較すると藻場の方が2.4倍の効果があると推計されることを考えると、そのCO₂の吸収効果は非常に大きいということがわかります。
ちなみに、釧路港では、将来的には43,200㎡の浅場の整備計画があり、完成すると年間22.9t程度のCO₂貯留が期待でき、単純計算では約104,000㎡の森林に相当するという話ですので、整備の進捗が待たれます。
北海道開発局は、社会基盤整備計画の重点目標の一つとして、この他にもカーボンニュートラルに向けた取組を様々な分野で進めています。
日本では比類なき自然資源に恵まれた北海道。ブルーカーボンという貴重な資源を防波堤整備事業で活用したアイディアはナイスですね。
自然界には秘めたるポテンシャルの宝庫です。第2、第3のブルーカーボンを生み出せるかどうかは、今後の道民の知恵と汗にかかっているのかもしれません。
2022年3月第2号 No.116号
(文責:小町谷信彦)