建設業の担い手不足の問題は、年々深刻さを増していますが、切り札として期待されているのが、ICTやAIを活用した省人化・効率化の取組です。
とりわけ、道路や河川などのインフラの維持管理の人手不足は喫緊の課題で、ここ北海道でも様々な取組が進められています。
まず、積雪寒冷地特有の道路除雪では、従来、オペレーターと助手の2名体制で操作していた除雪機械にバックカメラやセンサー等の安全補助装置を付けることによってワンマン化しようという取組が進められています。北海道開発局が2015(平成27)年度に一人乗り除雪グレーダを導入したのを端緒に、GPSで位置情報を受信し、道路状況に合わせて自動制御システムで投雪の方向を切り替える一人乗りロータリー除雪車が今冬(2022年度)から知床峠で運用を開始します。そして、札幌市などでも、開発局に追随して除雪作業のワンマン化を進めています。
また民間ではトヨタ自動車が、”コネクティッドカー”と呼ばれるインターネット接続機能付き自動車を用いて冬季の道路路面の状態を把握し、滑りやすさを指標化する研究を札幌市立大学と共同で進めています。この研究は、トヨタとしては、集めたデータを車両の開発や故障のサポートに役立てようというねらいなのですが、道路管理者にとっては、ロードヒーティングの稼働・休止の判断や凍結防止剤・砂の散布指示の判断に役立つ情報が得られ、またドライバーも各車から集まる情報を準リアルタイムで入手することで安全でスムーズな運転が期待できます。今年(2022年)2月には札幌市の協力を得て実証実験も行われ、道路管理者、ドライバー、自動車メーカーの「三方良し」のこの妙案、早期の運用開始が待たれます。
ICTの活用は河川の管理に関しても進められています。
先月(2022年10月)、北海道開発局は石狩川の河川敷(たっぷ大橋の左岸下流)で堤防除草自動化の実証実験を行いました。自動制御システムコントロールボックスを取り付けた草刈り機を堤防内で実際に自動走行させ、その安全性や精度を確認する実験ですが、斜度が約11度と6度の斜面で旋回パターンを色々変えてイタドリの群生を勢いよく刈り取っていきました。
目標は完全な無人化ではなく、現地で作業員が一人で複数台の草刈り機を管理する自動運転を目指しているとのこと。そして、接続しているタブレットには施工済みの範囲が表示され、出来形計測の省力化も図れるそうです。
一方、ローテクのこんなユニークな実験も行われています。同じく北海道開発局が石狩川の堤防(国道337号札幌大橋の右岸上流)で実施している除草作業の実験なのですが、主役は何と羊です!
堤防は、降雨や流水などによる斜面の崩壊や洗堀を防ぐために芝などで覆いますが、草が伸びて地面が見えなくなると堤防の状態を点検できなくなり、危険なので、定期的に機械で刈り取っています。この機械除草の代わりに、コスト縮減と環境負荷の軽減の一石二鳥を狙って、近隣の牧場の羊を放牧して堤防の草を食べてもらっているのです。
しかし、一見ローテクの羊の放牧ですが、羊という生き物の精密な造りを考えると、最近見かける自動芝刈りロボットの比ではない超ハイテクツールと言った方が良さそうです。
堤防で群がり、草を食む羊の姿は、何とも牧歌的で北海道らしい風情を感じさせます。
私が写真を撮りに行った時にも、道外ナンバーのライダーがバイクを止めて愛らしい羊の姿をスマホで撮影していました。
こんな風景が道内のあちこちの堤防で見られると、北海道名物の必見スポットとして旅行ガイドで紹介されるようになるかもしれませんね。
2022年11月第1号 No.130号
(文責:小町谷信彦)