一般的に、道路や川の整備や管理に関心を持つ方はそう多くはないかもしれません。
私のような公共事業に関わる仕事に携わってきた者にとっては当たり前の業界の常識でも、意外と部外者には新鮮に映るということもありそうなので、今回はそんな観点から、道路と河川でこんなことが違うと言った話題をご紹介したいと思います。
河川は、主要なものから1級河川、2級河川、普通河川と大きく3種類に分けられ、1級水系の主要な部分は国(国土交通省)が管理し、特に国土交通大臣が指定する区間(指定区間)は都道府県に通常の管理を委任することとされています。
一方、道路も主要な道路は国道として国(国土交通省)が整備、管理します。ここまでは河川と同じですが、道路の場合は、国道の内、特に重要な区間(指定区間)を政令で指定し、国が直轄で管理することとされています。要するに、河川は国が管理しない区間を指定するのに対して、道路は国が管理する区間を指定する、という真逆の指定方法になっているのです。
このようなややこしい話は他にもあって、道路と河川では、起点・終点の考え方や右・左の見方が異なります。
道路は、例えば、最も重要な国道は東京を起点としていて、東京以外の主要都市間の路線では、東京に近い都市が起点とされます。そして、道路の右・左は起点側から終点側を見て右・左を指します。
一方、河川の場合は、起点は河口で終点は最上流なので、川の流れとは逆になります。そして、河川の右・左は、川の上流(終点側)から下流(起点側)を見て右・左と道路とは真逆なのです。もっとも、河川関係者は川の右岸・左岸という言葉を日常的に使いますが、一般人にとっては知らなくても良い話かもしれませんが‥…。
さて、いささかマニアックな話題が続きますが、内陸県には1級河川しかない(山梨県を除く)ということはご存知でしょうか? *注
全国に内陸県は8県あり、東から栃木、群馬、埼玉、山梨、長野、岐阜、滋賀、奈良ですが、山梨県を除くとどの県の河川も支川を含めて全て1級河川で2級河川はありません。
しかしこれは考えて見ると当たり前の話で、1級河川は河川法により政令で定められているのですが、2つ以上の都県にまたがる水系が1級水系とされているからなのです。そもそも内陸県には海がありませんから、普通、県内を流れる川は別の県内を流れ下って、海にたどり着きます。それでほとんどの場合、内陸県の川は県を跨ぐので1級河川というわけなのです。
では、山梨県は内陸県なのに例外というのは、どういうことなのでしょうか?
実は、富士五湖のうちの3湖(西湖、精進湖、本栖湖)は山梨県にあるのですが、これらの湖は富士山の溶岩流がせき止められて出来たため、湖から流出する河川がありません。それで、ここに流入する河川と湖は2級河川として山梨県が管理しているのです。
ちなみに、これらの3つの湖が、長い年月、雨の影響も受けずに大きさを変えることもなく、閉鎖水域の状態を保ち続けられたのは何故でしょうか? 地下で1級河川相模川流域に繋がっていたためと推測されていますが、興味深いですね。
ところで、普通、川は山から発し海に流れ下る、という日本の川の常識は、砂漠の国では通用しないようです。
砂漠の川は、雨季にだけ川になって乾季には枯れてしま枯れ川、砂漠を流れ下るうちに蒸発して消えてしまう内陸川等々、日本ではあまり見られない川のスタイルが一般的なようです。
わが国は、「水と安全がタダで手に入る恵まれた国」と海外から評されることがありますが、水害が多いと文句を言っていないで、豊かな実りと緑を生み出す、川の恵みへの感謝を忘れないようにしたいものです!
*注)参考資料:松田芳夫の「河川こぼれ話」【12】内陸県(海無し県)には一級河川しか無い? (日本河川協会メールマガジン)
2024年5月第2号No.145
(文責:小町谷信彦)