「本日はお日柄も良く、‥‥。」(注1)
言わずと知れた結婚式のスピーチの決まり文句ですが、どうも人生の節目の大事なセレモニーの日を、縁起の良い日から選ぶという文化は欧米にはなく、中国の干支(えと)の影響を受けた東アジアに特有なのかもしれません。日本の場合は、それに神道の影響が加わり、いまだに伝統的なしきたりが残っていることに、現代まで続く世界最古の王族と言われる天皇家と共に歩んできた長い大和民族の歴史を垣間見る思いがします。
さて、縁起をかつぐという意味では、土木・建築の世界はそのようなセレモニーの多い業界と言えそうですが、その理由も良くわかります。
なぜならば、大きな土木工事が相手にしている自然は、相当手強く、時には荒れ狂い、その圧倒的なパワーに人の力はなすすべもないこともあるからです。
そういう意味で、工事の着工前に恒例の起工式や地鎮祭は、自分たちの限界を認め、土地の神々に工事の安全成就を願う、謙虚な気持ちの表れと言えるかもしれません。
さて、吉日というと六曜の「大安」、凶日というと「仏滅」までは日本人の常識ですが、 北斗七星のある方角で日取りの吉凶を占う「十二直」に基づく「建築吉日」はあまり知られていないでしょう。
代表的なのは「建(たつ)」で、建築の世界では最も良い日とされ、地鎮祭や上棟式に最適で、運気が開く「開(ひらく)」でも良いとのこと。新しい事業の開始や開店には、全てが満ち溢れる「満(みつ)」や物事が定まる「定(さだ)」が良いなど、何やら色々あります。
余談ですが、年賀状に描かれる十二支の動物もそれぞれ何を表しているか調べてみると、中々面白いですね。
多産な「ネズミ」は子だくさん、「牛」は働き者なので力強さや粘り強さ、「虎」は勢いがあって力強く、「千里行って、千里帰る」という諺から旅の安全、と色々です。
興味深いのは、今なら結構気持ち悪いと思われがちな蛇が、昔は世界的に縁起が良い動物とされていました。私は知りませんでしたが、日本でも「財布に蛇の抜け殻を入れておくと、お金が貯まる」という諺があり「金運」の縁起物とされてきたようです。また、何度も脱皮して長生きするので「不当長寿」の象徴ともされてきたということです。
もっとも蛇は、聖書では、人類最初の人間アダムとイブを騙して禁断の果実を食させた悪魔サタンとして登場するとんでもない動物なのですが‥。
さて、虫も様々な縁起と関係していますが、中には土木工事に役に立ちそうな虫もいます。
「朝クモは縁起がいいから殺してはいけない」という諺があります。なぜでしょうか?
クモが朝、網を張るのは、その日の天気が良いと思ったからで、クモの天気予報に従って、農作業をすると作業が進むことを、昔のお百姓さんは経験から学んだのでしょう。
こちらは科学的根拠が何もありませんが、トンボは真っ直ぐ一直線に飛ぶことから、決して退却しない「勝ち組」の象徴とされ、戦国武将の多くが兜(かぶと)や鎧(よろい)の装飾に使ったことが知られています。
実は当社では、夏場、工事現場でしばしば悩まされるスズメバチ対策に、天敵であるオニヤンマの精巧な模型をヘルメットの上に付けて蜂除けにする実験を試行しています。
スズメバチは本物のオニヤンマを見つけると一目散に逃げていくそうなのですが、果たしてこのニセ物が通用するかどうか?
「勝ち虫」オニヤンマでスズメバチ対策の「勝ち組」になれるかどうか、結果が出るのが楽しみです!
いずれにしても、工事現場の皆さん、スズメバチと熱中症には、十分にご注意あれ!
(注1)全くの余談ですが「本日は、お日柄も良く」著・原田マハ、は気軽に読める小説で個人的にお薦めです。
2024年7月第2号 No.148
(文責:小町谷信彦)