札幌の人気を土木の視点から探る
このコラムを書いている今は、札幌観光のシーズンたけなわの8月上旬。札幌が地元の私にとっては、仕事で歩き、買い物や食事で出歩く普段着の街中ですが、大勢の観光客でにぎわう街並みを見ていると、ちょっと得をした気分になります。
そんな札幌には大通公園を始めとした数々の観光スポットがありますが、札幌の町は碁盤の目なので初めての人にとってもわかりやすく街歩きがしやすい、という声もよく聞きます。
そういうわけで札幌の人気の一因は、町のわかりやすさにもあると個人的には思っているのですが、それは主に道路のわかりやすさで決まるものなのでしょうか?
半世紀も前ですが、ケビン・リンチという都市計画家がその答えを求めて、市民に「道を案内する時どのように説明するか?」といったアンケートを行いました。そして、その結果を分析してわかったのは、ふだん目にしていても認識しやすい要素と見落されがちな要素があり、五つの視覚的な構成要素が「都市のわかりやすさ」すなわち「都市のイメージ」に大きな影響を与えているということでした。
その五つの要素とは、①パス(道路)、②エッジ(縁)、③ディストリクト(地域)、④ノード(接合点、集中点)、⑤ランドマーク(目印)とのことで、例えば、パスは日頃通る道筋、エッジは海岸や川、高速道路などが該当します。
それでは、わが町札幌についてこの5項目をチェックしてみましょう。
まずパス(道路)は、オオバボダイジュの街路樹が特徴的な駅前通りや花壇や噴水が目を楽しませてくれる大通公園、水辺の散歩道 創成川。次にエッジ(縁)は、街中から遠望できる円山や藻岩山などの外縁の山並みがそれになります。ディストリクト(地域)は、ススキノ界隈の繁華街、大通公園北側の少しフォーマルなビル街、大通公園南側は百貨店や専門店が並ぶ地域。ノード(接合点、集中店)は、駅前通りの正面にそびえる札幌駅ビル。ランドマークは、碁盤目の原点に鎮座するテレビ塔となるでしょう。
どうやら、五つの要素すべてに印象的な役者がそろっているようですね。そして、これらが緑豊かな広い歩道でつながっていて気持ち良く散策できるというところが、「地域の魅力度ランキング(ブランド総合研究所:地域ブランド調査)」で毎年トップ3にランクされる所以なのかもしれません。
さて、このわかりやすい札幌の街の成り立ちは明治初期に遡るわけですが、開拓使時代の札幌の古地図を眺めるととても面白い発見があります。現在の道庁赤レンガの位置に置かれた開拓使は、西側から攻められた際の守りやすさを考慮して、一帯が湿地だった現在の植物園の敷地に隣接して配置されたと言われています。そして、コンパクトな市街地の北東端(鬼門)には北海道神宮頓宮(北5条東1丁目)、南西端(裏鬼門)には東本願寺(南7条西8丁目)が配置されています。恐らく、当時のロシアは現在とは比べものにならないほど大きな北方の脅威だったに違いありません。開拓使長官がどの程度信心深かったかは知る由もありませんが、ロシアを鬼と見立てて鬼払いをしていたことからもそれが伺えます。
碁盤の目という極めて機能的な街並みの札幌ですが、実はこういう一面もあるのです。
そんな歴史の豆知識を思い浮かべながら札幌の街を歩いてみると、何か新しい発見があるかもしれませんね。
(文責:小町谷信彦)
2018年8月第2号 No.35