土木の話題 5「バビロンの空中庭園 ~そこに見える古代土木技術の偉業~」

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バビロンの空中庭園 ~そこに見える古代土木技術の偉業~

 「七」という数字は何故か語呂が良いようでしばしば使われますが、皆さんは「世界の七不思議」というと何を思い浮かべますか? 万里の長城やピサの斜塔でしょうか?
 この七不思議を全部言える人は少ないかもしれません。
実は世界の七不思議は2種類あるのです。古代ギリシャ時代に数学者フィロンが選んだものと中世(推定14世紀以降)に語り継がれたもので、万里の長城とピサの斜塔は中世の七不思議の方です。
 一方、古代ギリシャの七不思議は、当時のギリシャ人にとっての世界、すなわち、エーゲ海周辺と中近東だけの狭い世界から選ばれたもので、有名なのはギザの大ピラミッドですが、他はほとんど現存していません。
 ただ、ギザの大ピラミッドに関しては、いまだに世界の七不思議と言われるだけの謎に包まれています。
 この巨大建造物は、底辺230m、高さ139mで平均2.5tの石灰岩を約270万個積み上げたとされていますが、なんと、底辺の誤差はわずか20cm、方位の誤差も数分という精密さで築かれたというのですから驚きです。内部の王室に使用された60tもの巨石をどのように運び込んだのか、その建設法については様々な仮説が出されているものの定説はなく、解明されていないのです。

 さて、古代の世界七不思議には、もうひとつ古代土木技術の偉業とされるものがありますが、それが今回取り上げる「バビロンの空中庭園」です。
 階段状に積み重ねられた人工地盤の上に樹木が茂るバビロンの空中庭園の絵(中世の想像画)をご覧になった方もおられるかもしれません。
この庭園を造るためには、優れた土木技術だけではなく、高い階上まで水を汲み上げる高度な灌漑技術が不可欠だったのですが、それが七不思議とされたゆえんでした。しかし、現存するピラミッドと違い、こちらは遺跡も発掘されておらず、歴史的な唯一の資料は古代ギリシャの歴史家ヨセフスの「バビロニアの祭司ベロッソスが、『紀元前290年頃にバビロニア王ネブガドネザルが空中庭園を建設した』と記述」という引用文だけで、建設された場所すら明らかになっていません。
 そんなわけで、東方の園の空想的な理想像を表現した神話に過ぎないとする説もあります。しかし、紀元前8世紀にイスラエルのヒゼキヤ王と闘かったことが旧約聖書(列王記第2、歴代記第2)で詳細に記述されているアッシリア王のセナケリブがアッシリアの首都ニネヴェに空中庭園を造ったという記録を根拠として、最近は「空中庭園は実際にニネヴェの王宮内に造られたが何世紀も経過するうちにバビロンに存在したものと勘違いされた」という学説が有力となっているようです。
 元々アッシリアには、王宮の庭園を建設する伝統があり、山を伐開して運河で水を引き果樹園を整備してきた歴史があります。セナケリブ王は、延々50kmを超える運河を山から引き、巨大な水道橋を築いて谷を渡り、自動的に放水する水門まで造ったと発掘された碑文に事績を記されています。古代ローマに先駆けること約700年も前に作られたアーチ構造石造のこの水道橋、何とセメントで防水されていたと言うのですから驚きです。
 ちなみに高所の空中庭園に水を引くために、より高い山から水を引き、螺旋状の機械を用いて、さらに高い場所に水を揚げたとのこと。「全ての人々にとって素晴らしいものを建てた」という碑文にも納得できる話です。
 ちなみにアッシリアの首都ニネヴェは、当時としては圧倒的な規模の人口12万人を擁する最高に栄華を極めた大都市でしたが、預言者ゼパニアが語った「アッシリアを滅ぼし、ニネヴェを荒廃させ、砂漠のように乾燥地にする」という神の預言通り、今に至るも荒廃した砂漠のままとなっています。

 さて、時代は下って現代。古代においては七不思議だった空中庭園も、最新技術を持ってすれば造成も容易で、東京や大阪などの大都市では屋上庭園や屋上・壁面の緑化がすっかり見慣れた風景になってきました。
 それでも、推定面積7.5㎢(札幌・円山公園11個分)の古代首都ニネヴェに造られたという一辺120mの正方形の空中庭園の巨大なスケールと比べると、面積619㎢の超巨大都市・東京(23区)の空中庭園はなんとスケールが小さく、インパクトのうすいことか!
 砂漠都市“東京"をオアシスに変える「現代版バビロンの空中庭園」の誕生を望むのは見果てぬ夢なのかもしれません。

 ちなみに、大阪の「なんばパークス」は本格的な空中庭園の先駆けですが、それなりのスケールで、潤いある豊かな外部空間を生み出しています。ヒートアイランド対策としても有効と考えられる空中庭園。もっと全国各地で整備を進めて欲しいものです!

なんばパークス

大阪市の南海電鉄難波駅の南側に立地する複合商業施設で、元南海ホークスのホームグラウンド大阪球場の跡地再開発により第1期部分が2003年、第2期部分が2007年に開業。

「緑との共存」をテーマとして、3.3haの敷地に建設された地上10階、地下3階の建物の地上部分は階段状に造られ、屋上部分は約235種、約40,000株の植物が植えられている。

(文責:小町谷信彦)
2018年10月第2号 No.41