土木の話題 6「土木のフロンティア ~宇宙~ 」

土木のフロンティア ~宇宙~

新春には夢のある話というのが、世の中の定番。そこで、今回は、土木の夢について取り上げます。
とはいえ、昨今、注目されているICTとかAI、ユビキタスといった今風の話題ではなく、土木のフロンティアという古典的な切り口で書いてみたいと思います。

まずは、古今を問わず夢のフロンティアと言えば宇宙でしょう。
古代人が、ウサギが餅つきをしていると空想した月の世界も現代では少し身近になり、国際宇宙ステーションに1週間半滞在する宇宙旅行は既に7人の一般人が体験済みとのこと。それでも、この宇宙旅行のお値段が約22億円、そして、高度100kmの大気圏を一瞬越えて無重力を体験できる弾丸ツアーの相場が2000万円超では、大富豪ならいざ知らず、我々庶民には、まだまだ夢の世界です。

しかし、宇宙旅行を誰もが楽しめるものにする壮大なプロジェクトが構想されています。
それは、「2050年エレベーターで宇宙へ」をキャッチフレーズに大林組が進めている「宇宙エレベーター」建設構想です。この構想は、人や物資を経済的かつ大量に宇宙に搬送するために、海洋上に発着場、地球と月との距離の約10分の1の上空3.6万㎞にターミナル駅、そして9.6万㎞の彼方にタワーを設置し、それらをケーブルで繋いでエレベーターを運行させるというものです。この原理は意外とシンプルで、上空3.6万㎞で地球と同じ周期で周回している静止衛星から地球側と宇宙側の両方に重力と遠心力がバランスするようにケーブルを伸ばせば、静止軌道を安定的に維持できるというアイディアです。

そして、宇宙都市を視野に入れた研究開発も進んでいます。同じく大林組は先日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で、月や火星で入手可能な土壌だけで建設資材を製造する手法を開発したと発表しました。宇宙でのインフラ建設では、地球から資材を運ぶと膨大な費用がかかるので、現地材料により経済的に建設資材を製造しようという発想です。それで、月の資材は、アポロ計画で持ち帰った「月の砂」を参考に組成や粒度を調整した模擬砂を使用し、採取土壌のない火星については、土壌に7~8%の含水比を有する粘土鉱物のベントナイトを含むという推察に基づいて3種類の試料を使用したとのこと。いよいよSFの世界だった宇宙都市も現実に近づきつつあるようですね。

一方、宇宙の夢を壊すような話も進んでいるのは、とても残念ですね。
米国のトランプ大統領は、2018年6月にアメリカ宇宙軍を米軍の6番目の部門としての創設を指示したとのこと。既にロシアには航空宇宙軍がありますし、中国も2018年12月に世界で初めて月の裏側に月面探査機を軟着陸させましたが、資源開発は名目にすぎず、本当の狙いは宇宙制覇のための軍事拠点づくりにあるのではという憶測を呼んでいます。
いくら技術開発が進んで宇宙旅行の夢が現実のものになっても、宇宙は危険地帯という事態に陥りかねません。
スターウォーズは娯楽映画の世界だけで、ノンフィクションにならないことを願ううばかりです。

(文責:小町谷信彦)
2019年1月第1号 No.50