土木のフロンティアその2 ~地下空間(ジオフロント)~
地下空間がにわかに注目を集めた時代がありました。それは、80年代のバブル期のころです。異常な地価高騰の熱狂のさなか、都市開発の残されたフロンティアとして、大規模な地下開発構想が次々と発表されました。「アーバン・ジオ・グリッド構想」「アリス・シティ構想」「オデッセイア21構想」「ジオ・ブレイン構想」等々、スーパーゼネコンのビックプロジェクトが百花繚乱でしたが、バブル崩壊とともに雲散霧消、打ち上げ花火で終わってしまいました。
一方、同時期に注目されたもう一つのフロンティア「ウォーターフロント」は、東京湾を皮切りに横浜や大阪といった大都市湾岸のみならず地方都市にも波及し、都市の活性化に大きな役割を果たしました。ただ、こちらは、街中にとり残された「未開拓地域」という意味でのフロンティアでしたが、「先端的地域」としてのフロンティアではありません。
そういう意味では、地下空間「ジオフロント」は次世代に残された貴重な先端的フロンティアと言えそうです。
地下空間の未来を語る前に、その歴史をたどってみましょう。
まずはトルコのお話。世界遺産で有名なカッパドキア地方のカイマクルという町には、地下8層の地下都市の遺跡があり、ローマ帝国の迫害を逃れてこの地にたどり着いた初期キリスト教徒達が隠れ住み、何世紀もかけて掘り進み、拡張したとのことですが、それを造り始めたのは起源前のヒッタイト人とされています。地下空間の起源はとてもとても古いのです。
このような外敵から身を隠す隠れ家としてだけではなく、戦時には爆撃から身を守る防空壕としても地下は活用されてきました。北京の天安門広場の地下が30万人もの人が収容できる巨大シェルターになっていることをご存知でしょうか?1969年以降、中ソ関係が悪化した頃に10年もかけて造ったもので、かつては観光スポットとして一般公開されていたとのことです。
また、地下は地震波の減衰が大きく耐震性が高いことから、中国の広州開発区では都市開発の中心軸となる緑地の地下が都市機能と防災機能を併せ持つ都市拠点として計画されています。東京の皇居前広場にも同様の機能を備えた地下空間を整備して東京駅の地下街と繋げるという計画が専門家によって提案されています。
さて、地下空間には、温度や湿度が一定というメリットもあります。特に寒冷地では、この恒温性は大きな魅力で、北米や北欧では大規模な地下空間の整備が進んでいます。
特にカナダのトロントとモントリオールは地下の巨大なネットワークで有名ですが、地表近くまで岩盤の北欧で地下の開発が進んだのは、スウェーデンの偉人ノーベルによるダイナマイトの発明で岩盤の発破が可能になってからというのは興味深いですね。
最後にニューヨークの話です。通称「ハイライン」という廃線鉄道の高架線跡を再整備した「空中公園」が、ニューヨークの新たな観光スポットになっていますが、ハイの次はロウ、「ロウライン」という世界初の「地下公園」計画が路面電車の廃駅・廃線跡(約3700㎡)で進められています。これは、屋外の採光機で集めた太陽光を光ファイバーで地下に送り、地下天井に設置したソーラー・キャノピー(太陽光の天蓋)で光を分散させて、草木に必要な光を降り注ぐ、という先端技術の開発により実現可能となった画期的なプロジェクトです。2015年に造られた実物の10分の1スケールのロウライン・ラボ(試験的スペース)では、60種類3500本の植物が生育し、洞窟の中の庭園といった風情の不思議な光景が楽しめるとのこと。2020年に予定されている完成が楽しみですね。
札幌も駅前通地下歩行空間が完成して、早8年になりますが、改めて地下空間のメリットを実感している方も多いことでしょう。
札幌は世界に類例のない多雪の大都市と言われています。札幌オリンピックを契機に、雪というハンディを先端技術と知恵で克服する次世代型「大規模地下都市プロジェクト」をキックオフできないものでしょうか?
札幌市の年間の雪対策・除雪費は年間で約200億円ほど。この費用が地下都市でどれほど削減されるのか。技術の面だけではなく、財政の面からも考えてみる価値があるかもしれません。1月のコラムですので、多少は夢のあるお話ということで。。。
(文責:小町谷信彦)
2019年1月第2号 No.51