土木の話題 14「プロジェクトXと土木」

プロジェクトXと土木

「七五三現象」と言う言葉をご存知でしょうか?
平成19年度の青年白書(内閣府)で新規採用者の3年以内の離職率が、中卒7割、高卒5割、大卒3割という衝撃的な数字が示され、七五三現象として話題になりました。
 最近、離職率は少し改善されて六四三と語呂が合わなくなっているようですが、建設業界でも新人社員の離職問題は大きな悩みの種です。
 一方、昨今の若者は就職先選定の際のポイントとして、給与の良し悪しや休みが取れるかどうかの他に、社会貢献とか人の役にたつ仕事という点を重視しているようです。
 それで、建設事業は社会や産業の基盤を造り、我々の日々の生活を支えているという意味合いから社会貢献そのものだということを知ってもらうことが肝要と感じています。

 さて、若い方々には「プロジェクトX」と言っても「何、それ?」という感じかもしれませんが、今から20年前に始まり5年余りNHKが毎週放映していた人気のドキュメンタリー番組です。中島みゆきの迫力ある歌声とナレーションの独特の語り口を思い出される方も多いことでしょう。
様々なジャンルのプロジェクトにスポットライトを当て、汗と涙、苦労の末に完成へとたどり着く波乱万丈の物語は、多くの視聴者の感動を生み、元気と勇気を与えました。

 このプロジェクトXの190回のプログラムを調べると、大規模土木プロジェクトが11件(13回)もピックアップされていたことがわかります。
 まずは青函トンネルが第3回での放映、続いて第14回で黒部ダムが取り上げられますが、極めて異例なことに2005年には再度、前編・後編の2回に分けて放映されました。
 この黒部ダムは、山岳奥地、過酷な気象条件での難工事、それも昭和30年代のまだ建設技術も高度化されていなかった時代ですから多くの殉職者を出す悲劇を乗り越えての工事で、「工事現場は戦場」という番組の中のナレーションがとても印象的でした。また、子供の頃に学校で観た文部省推薦映画「黒部の太陽」(主演:石原裕次郎、三船敏郎)の記憶の断片が数十年ぶりによみがえりました。

    黒部ダム(出典:ウィキペディア)

 プロジェクトXでは、他に瀬戸大橋、横浜ベイブリッジといった長大橋や関越トンネル、名神高速、首都高などの日本の代表的な土木プロジェクト完成の裏に隠れた苦労が赤裸々に語られていましたが、スエズ運河、アジアハイウェイといった国際的プロジェクトも取り上げられ、世界に羽ばたくことを夢見る若者の心を湧き立たせたのではないかと思います。

 さて、時代をさかのぼること百年余り、明治時代にも世紀の大プロジェクト、パナマ運河の建設に携わった日本人土木技術者がいました。小樽北防波堤の築造などで名を知られた廣井勇の弟子の青山士(あおやまあきら)です。測量員としてパナマの過酷なジャングルに踏み入り、マラリヤにもめげずに勤勉に成果をあげ、設計技師としてパナマ運河の重要な仕事を任されるまでになりました。
 また、同じく廣井勇の教え子、八田與一(はったよいち)は、大正時代に日本の統治下にあった台湾で、水利技術者として農地灌漑用の大貯水池である烏山頭ダムの建設に尽力しました。このダムの完成により、下流域の15万ヘクタールの農地に水が安定的に供給されるようになり、地域の人々からの賞賛を浴びたとのことです。八田の台湾での功績の大きさは、その後、烏山頭ダムが公園として整備され、八田を顕彰する記念館や胸像が作られただけではなく、現在も命日の5月8日に慰霊祭が行われていることからも伺い知れます。(八田与一の生涯は「パッテンライ!!~南の島の物語~」というタイトルで虫プロによって長編のマンガ映画化されています。)

 「地図に残る仕事」は、某スーパーゼネコンのスローガンですが、日本や世界の地図に残る仕事をしてきた数多くの土木の先人たちの道のりをたどると、土木が開いてきた世界が見えてくるのではないでしょうか?

(文責:小町谷信彦)
2020年5月第1号 No.76号