Ⅰ 第二青函多用途トンネル構想を検討するに至った考え方
北海道新幹線は、青函トンネルを中心に貨物との共用部分が多くあり、同区間は貨物とのすれ違い走行となるため、本来の高速走行が出来ない状況となっており、早急な解決が求められている。その解決策として、平成29年3月に民間主導でプロジェクト提言をしてきた日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)が、列車専用のトンネルと無人自動運転トラック用の二本のトンネルを整備する第二青函トンネル構想を提言した。
また、平成28年3月には、日本建設業連合会鉄道工事委員会が、鉄道トンネルとして「第2津軽海峡線建設構想」を取りまとめている。
こうした提言を踏まえつつ、自動車が有人走行できる道路トンネルも含めた第2青函トンネル構想を検討するため有識者による研究会(座長 石井吉春北大公共政策大学院特任教授)を発足し、多用途トンネルとしての第2青函トンネルの実現可能性の検討、実現に向けた課題などの抽出を行い、提言を取りまとめた。経済界から委員会のオブザーバーとして、北海道経済連合会、北海道商工会議所連合会に加わっていただいた。
Ⅱ 青函トンネルの課題
課題1 新幹線と貨物列車との共用走行による新幹線の低速走行
課題2 北海道、本州間のトラック輸送に必ず海上輸送が介在することによる輸送コスト高、輸送時間の自由度制限など北海道の食料生産等、産業への大きな制約が存在
課題1は、当面の課題であり、国土交通省も検討を進めており、いくつかの解決策が提案されている。JAPIC及び日建連の構想もこの課題の解決策である。
課題2は、北海道経済の将来発展を見通した場合、この解決は大きなテーマである。JAPICの構想は、この課題に解決策を提案している。当研究会の構想もこの解決を目指している。
Ⅲ 第二青函多用途トンネル構想
1.研究会の検討の前提
①供用走行問題は、喫緊の課題であり、当研究会では検討対象としない
②有人走行が出来る
③現行の法律、規則、基準を守る
④現在実用化している技術を使用する
2.有人自動車走行道路トンネル課題と対応の考え方
(1)路線決定の課題
現行青函トンネルは津軽海峡で最も浅い海底に作られており、トンネル距離が最短で、地質データなどの各種施工データの利用も可能となるため、現行トンネルに出来るだけ平行に整備する。
(2)構造上の課題
本研究会ではトンネルの多用途化を図るために下段に空間ができる円形を想定する。
有人走行を想定するため現行の基準に沿って、走行車線3.5m、路肩1.75m、の片側1車線、中央分離として隔壁(スリット式)、管理用通路を配置する。
これらを考慮し、緊急車両通行路と乗車員の避難路を配置すると、内径14.5mの円形の構造と想定する。この内径は、国内の最大級である。
現在、自動運転技術の開発が進められており、自動運転(Level3以上)が実現すれば、JAPICの構想のように、トンネル内径を2m程度縮小することが可能となる。
(3)施工上の課題
現行青函トンネルとほぼ同様な課題がある。また、トンネル本体の周辺に作業坑等があるため、離隔距離を考慮する必要がある。技術的には、外部環境想定の確実性を高めることでトンネル工法として現在確立された技術で施工可能と考えられる。
(4)管理上の課題 換気対策、PA設置
ⅰ) 換気について
トンネルアプローチ部の陸上部分に換気塔を設置し、トンネル内はファンによる排出を行なう(換気方式:縦流換気方式 ジェットファン方式+坑口集中排気方式(ジェットファン圧力補正付))。
ⅱ) パーキングエリア(休憩施設)について
Nexcoでは、最大25km、標準15kmごとに1か所の設置。
高規格幹線道路では、最大35km、トイレ対応として30分程度の間隔での対応。
休憩施設を設置しないとすれば、設置間隔を30分で、計画案では60km/h以上の運用が必要である。この場合、陸上のトンネルアプローチ部分に設置する。
中間地点での設置を想定すると、日あたり交通量を6,000台、ピーク時間交通量400台/hで、駐車ます数16台、特殊大型8台、小型8台想定すれば、別途0.6km程度のトンネル拡張が上下線別に必要。概算の工事費は、1,100億円が追加される。
(5)安全上の課題 火災、事故
通常の設備以外に、避難・救急搬送通路の設置が必要となる。避難・救急搬送通路は、トンネルを円形構造にして下部を人の避難通路及び救急搬送通路として利用する。
<第2青函トンネル構想 構造図>
<第2青函トンネル構想 構造断面イメージ>
3.第二青函トンネルの概略構造、建設費
建設事業費7,229億円 トンネル延長30km、内径14.5m
○トンネル建設費 6,900億円
○非常駐車帯750m間隔で設置 100億円
○換気設備(設計速度100km/hの場合) 229億円
4.キャッシュフロー(CF)検討の前提
○完成後の走行台数
現在の北海道~本州の自動車航送台数(3,800台/日)の転換率を本州四国連絡橋の実績並みの60%、誘発交通量は2倍及び1.5倍(本四実績は3.2倍)、将来の人口減少による影響は、北海道の2040年人口の対2017年比率0.87を乗じている。
この結果、標準ケースでは走行台数は1日4千台、やや慎重なケースでは1日3千台となる。大型車と普通車の比率は一対一とする。
○通行料金
通行料金については、青函フェリーの料金を基本に、相応の料金軽減が実現できる水準に設定し、大型料金を@30千円(最も安い金額)×0.7(平均の料金水準と想定)×0.5(料金軽減率)として、10.5千円、普通料金は、半額の5.25千円としている。
○支出
維持管理費として、トンネル本体の電気代、設備更新費20億円に加え、排気設備の電気代11.5億円を、点検費用として年間0.4億円を見込んでいる。
将来の施設の長寿命化なども踏まえ、維持起業費として、減価償却費(平均耐用年数30年として試算)の20%相当額(48.2億円)を見込んでいる。
5.将来キャッシュフロー(CF)と投資回収可能年数
走行台数4千台/日のケースでは、年間収入230.0億円に対して、年間支出は80.1億円となり、年間149.9億円のCFが確保できる試算、工事費は48.2年で投資回収の見込みで、3千台/日のケースでも、78.3年で投資回収可能となっている。
民間投資と比較すれば、投資回収期間がきわめて長い事業と評価せざるを得ないが、本来公共事業で行ってきた分野としては、収益での投資回収が可能とみられるあまり例のない事業と位置づけられる。
こうした試算結果が得られた背景要因は、民間事業として行われている青函フェリーの料金水準が高水準にあること、トンネル工事の費用軽減の効果が大きく表れていることなどが考えられる。トンネル本体のみということであれば、PPP的な手法を用いて、民間主導による計画推進が可能になると考えられる。
既存の高速道路体系への接続などにおいて、国が中心的な役割を担っていくことが、当該事業の円滑な推進の前提条件になる。
6.経済波及効果
○需要誘発効果について
走行台数4千台/日のケースでは、誘発交通量を2千台/日、半分を来道者と仮定、1台平均で4人乗車として誘発旅客数を算出。
さらに、交通費を除く来道者1人当たりの観光消費額5万円を消費するとして、総消費額を算出している。走行台数3千台の場合は誘発交通量を1千台/日として、計算。
○総消費額(年間)は、
走行台数4千台/日の場合で730億円、走行台数3千台/日の場合で365億円。
○直接の運賃削減効果は、
転換需要の2千台/日にかかる運賃削減額を試算し、0.7を乗じた平均料金の5割として料金設定しているので、同じ分だけ運賃削減がなされたものとして試算している。年間の運賃削減効果は、ケースを問わず年間117億円となっている。
○そのほかの効果として、北海道~本州の所要時間の大幅な短縮と本州以西との一体感が強固なものとなる。
これまで、沖縄と北海道は、道路交通では離島と位置づけられる地域だったが、初めてその位置づけを超えることができる第二青函トンネル構想は、北海道経済の未来を変える大きな可能性を持つ事業である。
Ⅳ 結語
現在自動車の原動力機構(パワートレイン)はエンジン車だけでなく、排気ガスの少ないハイブリッド車(HV)、また全く排気ガスの出ない電気自動車(EV,FCV)などが増えてきており、さらに将来その方向に進んで行くと予想され、加えて、自動運転技術がいよいよ現実のものとなり、数年後には区間限定であるが、人が全く関与しないで安全に走行することが可能になると予想している。そのため、長距離海底トンネルの換気や火災事故等の安全に対する懸念が小さくなってきている。
仮に今すぐトンネル建設の着工ができたとしても完成は、早くとも10年後と予想されることもあり、それまでにさらなる自動車原動力や自動運転技術の進歩が期待され、今回
検討した現行基準に基づいた建設コストも換気設備の縮小、トンネル内の事故等の問題から決定されている空間の広がりも縮小できる可能性が出てきており、更なるコスト低減も可能である。
また、長距離トンネルのドライバー心理に与える影響の緩和は、現行ではパーキングエリア等の休憩施設で行なっているが、今後の自動運転技術の確立により、現在より長い距離を走行しても運転の安全性が確保されると考えられる。
今回、現行の技術基準に照らして概略の検討をした。その結果は、経済的に建設可能と確認され、更なる自動車技術の革新の進展により建設コストの低廉化及び長距離トンネルにおける自走の安全性の確保の可能性が見えてきた。
今回の研究により、有人走行自動車トンネルは、決して夢ではなく、自分の意思で自由に自走(さらに自動運転)でき、かつ速く、そして安く本州と北海道間を渡ることが実現できることとなる。その結果、「日本の主要4島が道で繋がる」大きな夢が現実になると考えている。
今回の研究は、まだまだ概略であり今後各界各層で議論の深まることを期待している。
栗田 悟
1979年 東北大学大学院修了後、運輸省港湾局(現・国土交通省)入省
2001年 国土交通省北海道局企画課企画調整官
2004年 〃 北海道開発局港湾空港部港湾計画課長
2006年 〃 港湾局海岸・防災課長
2008年 〃 北海道局港政課長
2009年 〃 北海道開発局事業振興部長
2010年 〃 北海道開発局港湾空港部長
2013年 〃 中国地方整備局長
2014年 一般社団法人北海道建設業協会顧問
2015年5月より現職