動物の道とロードキル
最近、大手建設会社のテレビCMが目を引くようになりました。売れっ子漫画家によるアニメや人気タレントの採用など、各社競っていますが、建設業界の3K、談合問題といったネガティブなイメージを払拭して、将来の担い手確保に活路を見出したいという強い想いが感じ取れます。
同じく建設関連の建設機械最大手「コマツ」が制作したドイツ・アウトバーンの「動物の道」に焦点を当てたCMを興味深く感じた方は少なくないのではないでしょうか?
ともすると公共事業は自然破壊の元凶というレッテルが張られがちですが、「人間の道をつくるなら、動物の道もつくれ。」という斬新なキャッチコピーとともに映し出される森にたたずむ牡鹿の美しい映像は爽やかで、人と自然との共存を印象付けるものでした。
動物の道は、道路が動物たちの棲み処を分断しないための動物の通り道として道路を横断する「アニマルブリッジ」やトンネル(ボックスカルバート又は管)を設けたものですが、世界を見渡すと、カナダの熊の道、ケニヤの象の道、ニュージーランドのペンギンの道、オーストラリアのカニの道と、お国柄それぞれに実に様々な動物の道があるのには驚かされます。
日本でも平成6年に建設省(現・国土交通省)が「環境政策大綱」に生き物や自然環境を大切にした道づくり「エコロード」を環境リーディング事業に位置付け、自然に配慮した路線、橋梁・トンネルによる切土・盛土の回避、動物の通り道・側溝に落ちた小動物のためのスロープの設置等、計画・設計から施工・管理まで自然環境に配慮したエコロードづくりを進めてきました。ちなみに、平成16年に日本で考案された「アニマルパスウェイ(ApW)」(森と森を繋ぐ小動物のための歩道橋)は、国内のみならず世界にも普及し始めているとのことです。
リスの道
清里高原道路のヤマネブリッジ
さて、北海道では近年、動物の交通事故「ロードキル」、とりわけエゾシカのロードキルが、動物の保護という観点というよりも車の交通事故問題としてクローズアップされています。というのは、エゾシカが関係する交通事故が統計を取り始めた平成16年の1,170件から令和2年には3,511件と16年で約3倍に急増したのです。この問題は鹿の個体数増加に起因するのですが、増加の主な原因は、森林の大規模な開発により鹿が住みやすい環境が増えたためと考えられています。そのため個体数の調整が始まりましたが、ハンターの不足などで順調に進んでおらず、一方、高速道路や幹線道路などでは鹿の進入防止柵を張り巡らすなどの対策が進んでいますが問題解決には至っていません。
アウトジャンプ(フェンス等で囲まれた道路敷地内に進入した鹿が路外へは脱出できるが、逆へは行けない仕組み。この仕組みのゲートがワンウェイゲート; 出典:国土交通省北海道開発局函館開発建設部HP エコロード |函館開発建設部 (mlit.go.jp)))
北海道を象徴する代表的な動物「ヒグマ」もエゾシカと同様に保護政策が功を奏して増え過ぎてしまい、人口約200万人の大都市札幌の市街地にまで頻繁に出没し問題化しています。
他方、世界では現在、「100万種以上の動植物が絶滅の危機(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES))」で、人類史上かつてない脅威にさらされているとのこと。
「海の魚と天の飛ぶ生き物と地の上を動くあらゆる生き物を服従させよ」とは、今から約3500年前に書かれた旧約聖書(創世記)にある神から人間への命令ですが、「動物と人との共存」は人類誕生以来の壮大な難題の一つと言えるのかもしれません。
2021年7月第1号 No.101号
(文責:小町谷信彦)