今回のテーマは、KK線再生プロジェクトですが、北海道の方には「KK線って何?」という感じでしょう。実は私も知らなかったのですが、東京高速道路(株)が無料で供用している新橋~新京橋間の自動車専用道路で、首都高速道路(首都高)の3か所のジャンクション(西銀座、京橋、汐留)と接続して、首都高のバイパス機能を果たしているとのこと。
しかし、首都高の日本橋周辺区間が地下化されることになり、この道路も必要なくなるので、遊歩道として再生しようというのが、この「KK線再生プロジェクト」なのです。
そもそも首都高を地下化することになったのは何故でしょうか?
その昔、世界一の人口を誇った江戸の都で、日本橋はお江戸日本橋と謳われ、その賑わいを象徴する中心地でした。時は下って戦後の高度経済成長期、アジアで初のオリンピックということで世界の注目を集めた1964年東京大会に合わせて急遽、首都高の建設が進められましたが、日本橋の上空を覆うように造られた環状線は、「花の日本橋」を橋下の日陰者に変えてしまったのです。
以来、日本橋の景観回復はずっと懸案事項とされてきましたが、半世紀あまりの時を経て、首都高の老朽化が進み、その対策検討の中で、ついに2019年、日本橋を含む神田橋JCT~江戸橋JCT間の地下化・全面リニューアルが決定したのです。そして、お役御免のKK線は、解体する案もありましたが、高架橋の解体や商業施設の移転補償に多額の費用を要することから、この再生プロジェクトが日の目を見たというわけです。
この再生プロジェクトでは、全長約2㎞の遊歩道の要所々々5か所に階段・エレベーターを設け、周辺街区のまちづくりと連携して歩行者系ネットワークの形成を目指しています。
既にプロジェクトは、都市計画の手続きや関係者間の調整など進められており、2023年のゴールデンウィークには、まだ供用中のKK線を二日間通行止めにして歩行者天国として開放するイベント「銀座スカイウォーク」(主催:東京都)を実施するなど、機運は盛り上がっています。
さて、このKK線プロジェクトのような都市内の連続高架橋の遊歩道化は、実は先例があり、ニューヨークの中心地マンハッタンのハイライン(High Line)は世界的に有名です。
ハイラインは高速道路ではなく、ウェストサイド線という貨物鉄道支線の廃線跡を空中緑道及び公園として再整備したもので、2009年から完成区間を順次公開し、2014年には全面公開されました。実はこのハイライン、1980年代に廃線となって以来、この高架橋は長い間、解体されることもなく放置され、不動産業者からは町の価値を下げる邪魔者と見做されていたのですが、再整備計画が決まり、アーバンデザインと造園、そしてエコロジーが融合した斬新な都市空間に生まれ変わり、2014年に全面公開されると、一躍市民だけでなく世界中からのビジターが集まる人気スポットとなりました。そして、四季折々の草花が咲く癒しの風景や様々なパーフォーマンスやイベントを楽しみに訪れる入場者は、今や年間800万人(2019年)にも達するそうです。
ハイライン(廃線跡で生育していた野草を再現;出典 Wikipedia)
そして、ここで注目したいのは、このプロジェクトが近隣の不動産開発に拍車をかけ、地域一帯の不動産価値を高めたという点です。この公園建設による波及効果は「ハイライン効果」というワードまで生み出し、再開発の手本ともされているのです。
ところで、ハイラインのモデルとなったのは、1993年に完成したパリ12区のバスティーユ広場を基点とする「プロムナード・プランテ」(植物のある散歩道)と言われています。
これも廃線になった鉄道高架橋4.7㎞区間を4つの庭園とそれを繋ぐ緑道として再整備したものです。
そして、韓国・ソウルでも高速道路跡を活用してソウル駅の北側を東西に結ぶ遊歩道・広場「ソウル路7017」が2017年に完成し、町の新たな賑わいの場となっています。
プロムナード・プランテ(出典:Wikipedia)
KK線再生プロジェクトは、2020年代中頃に整備に着手して、2020年代に一部供用、2030年代から2040年代が完成目標とのこと。このプロジェクトによって実現するTokyo Sky Corridorも、ハイラインがニューヨークらしいポップなアートを楽しめるように、東京らしさを反映した個性やカルチャー、また日本らしい自然や情緒に溢れた、魅力的な散歩道になって欲しいものですね。今後の展開が楽しみです!
2024年1月第2号 No.140
文責 小町谷信彦