道の話題44「美しい道路 曲線は直線に勝る?」

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 どちらも風景と調和した美しい道路ではありませんか?
 2枚とも北海道の道路で、左は国道273号を層雲峡から三国峠を越えて間もなくの松見大橋、右は国道230号の定山渓を過ぎたところの無意根大橋です。
 この美しさの要因、両者の共通点は何でしょうか?
 緩やかで滑らかな曲線を描く道路の線形でしょう。
 どちらも紅葉や深緑の季節の風景は圧巻で、とりわけ松見大橋は、その少し北側にある深緑橋からの眺めは見事です。機会があれば是非ご覧ください。
 ところで、無意根大橋を含む定山渓から中山峠までの路線は「定山渓道路」と呼ばれ、昭和44(1969)年に完成したのですが、土木技術史的にも特筆すべき道路でした。それまで平地の道路でしか使われていなかったクロソイド曲線(*脚注)を山岳道路の全路線で導入したのことが、当時、画期的なことだったのです。(また、明治初期の北海道開拓の礎ともなった歴史的にも重要な道路でした。詳しくは下記の参考資料をご覧ください)
 ちなみに、語源は、ギリシャ神話に登場する人間の運命の糸を紡ぐとされる女神クローソーから取られたとのこと。運命の女神に知らず知らずに手繰り寄せられるように、無意識にハンドルを切るうちにカーブを曲がれるスムーズな線形、そんな意味合いが込められているのでしょう。

 さて、右の写真は、「日本で一番美しい道路」とYou Tubeで話題となった北海道の美瑛の道路です。白樺街道で知られる白銀温泉の裏道なのですが、こちらも周りの木々と調和して、緩やかなカーブが描く道路線形が優美ですね!
 どうやら山々の樹林を縫う道路では、地形に沿った自然な道路線形が、その美しさの決め手のようです。

 しかし、平地の市街地の道路では、こういう訳にはいきません。宅地や商業地の土地区画は、曲線的な非整形より四角形の方が効率的で使い勝手が良いですし、そもそも道路は直線の方が走りやすいので、敢えて道路を曲げる必然性は、景観の観点以外には見当たらないでしょう。
 右の写真は、大手の不動産会社が札幌で手掛けた大規模宅地開発で造成された道路です。
 春、夏、秋のそれぞれの季節感が感じられる特徴ある植栽を施した緑地帯を設けた道路で、これは「秋の道」です。
 見て頂くとわかるように、道路は緩やかな曲線ですが、実は宅地区画も道路も碁盤目状です。
 これはどういうことなのでしょうか?
 現地を歩いてみれば、この謎は解けるのですが、車道の両側の緑地帯+歩道の部分の幅に変化をつけているのです。つまり、道路敷地は直線なのですが、その敷地幅の中で片側の歩道を広げた分だけ反対側の歩道を狭くすることによって、車道の幅は一定に保ちつつ、道路を蛇行させたのです。
 中々のアイディアだとは思いませんか? 考えて見るとコロンブスの卵なのですが!
 そして、歩道を拡幅した植樹帯の木々は、運転者の視界の真ん中に見えるので、緑のボリューム感が強まります。さらに、この曲線道路の終点部は、敢えてT字路にして、そこに公園を設けたので、アイスポット(目の注視点)にも公園の木々の緑が飛び込んで来るという配慮もされています。

左右の歩道幅を変化させて道路を曲線化

T字路の先に公園を設置

 最後に18世紀のイギリス風景式庭園の作庭で知られる “ウィリアム・ケント” の名言「自然は直線を嫌う。」をご紹介します。
 もちろん、美しい直線道路もありますし、直線的なシルエットの美しい橋もたくさんあります。
 しかし、私たち人類が、遥か遠い昔に地球という素晴らしい自然環境の中で誕生し、地球生態系の中でこれまで延々と生き続けてきた歴史を考えると、この自然が持つ美しさの中に、私たちが感じる美の原点はあるのではないかと思わずにはいられません。

*脚注 クロソイド曲線: 曲線の曲がり具合を一定割合で変化させていった時にできる曲線。
             道路の設計ではカーブでのスムーズなハンドル操作を可能にするために採用されている。

(参考資料)
松見大橋~錦秋の樹海に輝く技術の結晶 文・写真 秋野禎木 
大谷光信 〜既成概念にとらわれず、楽しくて美しい道をつくる〜 第2回 文・フリーライター 柴田美幸 
無意根大橋~自然と調和した壮大な定山渓国道 文 合田一道 写真 佐々木育弥 

2024年10月第2号No.154
(文責:小町谷信彦