道の話題22「道路統計と途上国の経済発展」

道路統計と途上国の経済発展

新型コロナウイルス感染症の脅威に見舞われ、世界中が混乱を極めています。
ここ北海道は、初期段階では北見でのクラスター発生、感染者数日本一という危機的状況に直面しましたが、北海道知事の緊急事態宣言と全道の小中学校休校勧告など、迅速な危機対応が功を奏し、幸い3月31日現在、感染は沈静化に向かっている模様です。
さて、今回の感染症防止のためのポイントとしては、密閉・密集・密接の回避が呼びかけられていますが、何よりも手洗いが重要とされています。
しかし、日本では考えられないのですが、世界には水が十分使えない国々があります。2015年時点でJICA地球環境部のレポートによると、約6.6億人が安全な飲料水を利用できない環境下にあり、下痢や赤痢などで乳幼児を中心に年間50万人が死亡しているとのことです。このような地域では、手を洗いたくても水がないという状況なのですから、感染症の伝播による悲惨な事態への突入が本当に危惧されます。
とはいえ、国際社会共通の課題として開発途上国の開発目標「ミレニアム開発目標」が定められた2000年の時点では約11億人を数えた水道を利用できなかった人が、この15年で4割も減少したのですから、途上国の環境改善の進捗には目を見張らされます。

そこで、私たちにとって人の住んでいる場所には当たり前にある道路についても、その恩恵を受けていない人々が世界にはどのくらいいるのか調べてみることにしました。
結果、残念ながらわからなかったのですが、国際道路統計(International Road Federation)から開発途上国の道路整備の進捗と経済発展との関係が少し透けて見えてきましたので、話題を転じてご紹介したいと思います。

上の表は、データの揃っている数か国を抽出し、その道路密度と名目GDPの1999年及び2016年データとその伸率を整理したみたものです。
かなりバラツキがあるので一概には言えませんが、大づかみには道路密度が大幅に上がっている国は名目GDPの伸びも概ね大きいという傾向が読み取れます。
開発途上で道路整備の遅れている国ほど、経済発展の伸びしろが大きく、道路の整備に伴う経済効果が表れやすいと言えるのかもしれません。
因みに、日本の終戦直後、昭和20年末における道路密度は2.38でしたが、2000年末までの55年で30%上がりました。その間の我が国の驚異的な経済成長については、皆さんご存じの通りだと思います。

ところで、道路密度に関しては、米国は0.68、フランスは1.98、ドイツは1.80と欧米の主要国(オランダ、ベルギー等の小国を除く)は日本よりも低くなっています。
また、可住地面積当たり道路延長という指標で比較すると日本は欧米諸国より圧倒的に高い数値になることから、日本は道路過剰だという批判を展開する論者がいます。
しかし、その批判は理にかなっているのでしょうか?
国土強靭化の先導者、藤井聡京都大学教授は、以下の2つの理由で明確に可住地面積による日本と欧米との比較はナンセンスと喝破しています。
すなわち、①日本の国土は大半が山で可住地面積が少なく、一方、欧米は可住地面積が大きい。②可住地面積が小さい場合、可住地面積当たりの道路は大きくなる。(詳しくはネットで「「道路」についての国際比較」をご覧ください。)

統計というのは、全体を客観的に俯瞰するのにとても有用なツールですが、複雑な世界の現実の一断面に過ぎないという事実を忘れると、偏った理解に陥いる危険が潜んでいます。様々な視点から曇りのない目で理解し、洞察力によりバランスの取れた判断ができるようになりたいものです。

(文責:小町谷信彦)
2020年3月第2号 No.72号