完成間もないころのミュンヘン大橋を通ったときに、その「構造美」に見とれたことを覚えている。外国の地名を橋の名に冠したことも印象的だったが、何より、くっきりとした鋭角的な橋の姿が、いかにも北緯43度の北都にふさわしいものに思えたものだ。
これまで車で通るばかりだった橋を、今回の執筆を機に、ゆっくりと歩いた。
橋の長さは171・7㍍。ランニングの市民とすれ違いながら、空に向かってそびえる53・6㍍の主塔を仰ぐ。先端の方がやや細く、中央にスリット(溝)が伸びる。いずれも塔の垂直性が強調されるデザインだそうだが、スリットは雨水を流す「樋」という実用的な役割も果たしている。
真下からは見えないが、塔頂部はピラミッド型になっている。デザイン性を重視しながら、冬場に雪が堆積しないようにと採用された形状だ。
主塔からパラレルに伸びた強靭なケーブルが、この橋を支える。1面12本で計48本。ケーブルの角度や強度などを緻密に計算し、橋が求められる機能を果たしながら外観のデザイン性を追求した末の「形」がミュンヘン大橋なのだろうと感じ入る。
【主塔のスリット】
橋の形式は、主塔から斜めに張った斜材を橋桁に直接つなぐ「斜張橋(しゃちょうきょう)」だ。この橋梁形式が第二次世界大戦後のドイツを中心に広がったことや、橋の着工の1988(昭和63)年が、札幌市とドイツ・ミュンヘン市との姉妹提携15周年に当たっていたことがミュンヘン大橋の命名の由来だという。
両市の姉妹提携は、冬季札幌五輪が開かれた1972年にミュンヘンで夏季五輪が開催されたことがきっかけだ。主塔の足元にあるバルコニーにはミュンヘンのオペラ劇場など、彼の地の古い建築物のレリーフが6枚配されている。遥か欧州の都市の劇場には、いま、どんな歓声が響いているだろうか。
半円状のバルコニーから、豊平川の河川敷を見渡す。週末の午後とあって、ウォーターガーデンで遊ぶ子どもたちの声が、時折、風に乗って聞こえてくる。あの子どもたちの瞳にも、この橋の姿は鮮やかに映っているのだろう。
【中央部のバルコニー】
目を転じれば、緑深い藻岩山がある。標高531㍍の山頂の展望台からも、この橋を見つめている市民がいるはずだ。
札幌のシンボルでもある豊平川と藻岩山とあいまって織りなす鮮やかな景観。やはり、ミュンヘン大橋は、この北都が誇るランドマークなのだ。
<交通アクセス> 札幌市南区南30条西8丁目
【地下鉄】南北線澄川駅から徒歩約15分
文・写真
秋野禎木(あきの・ただき)
元朝日新聞記者/現北海道大学野球部監督
1959年生まれ、北海道小平町出身
斜張橋
斜張橋は、ケーブルで橋桁を吊って支えることから、吊橋の1種と言えますが、土木・橋梁工学では吊橋と分けて分類されています。
斜張橋と吊橋との大きな相違点は、斜張橋が塔と桁をケーブルで直結しているのに対して、吊橋は塔の塔の間に渡したメインケーブルからハンガーロープを垂らして桁を吊っているという点です。
この橋の形式は、少ない材料で建造するのに適していましたが、ケーブルにかかる負荷の計算などが難しく、小規模な橋でのみ採用されてきましたが、20世紀末期からコンピューターによる構造解析やシミュレーション技術などが進み、長大な橋も建設されるようになりました。
<斜張橋のタイプ>
主塔の数や形状、ケーブルの張り方の違いで様々タイプの斜張橋が架設されています。
〇主塔の数 : 1本、2本、3本以上
〇主塔の形状: 1本、2本組、逆Y字形、A字形など
〇ケーブルの張り方
・放射型(ケーブルを塔の先端でまとめて接続)
・ファン型(ケーブルを塔の先端部から少しずつずらして接続)
・ハープ型(ケーブルを塔の全体にずらして接続)
・片持ち型(主塔1本でケーブルを片側からのみ吊る)
(出典:ウィキペディア)