松見大橋
~錦秋の樹海に輝く技術の結晶 文・写真 秋野禎木

公開

 錦秋の樹海を縫うように続く国道273号を、層雲峡側から走り抜ける。道内の国道では最も高い標高1139㍍の三国峠を越えて間もなく、蒼い山々を背にした松見大橋が目に飛び込んできた。

 季節ごとに表情を変えるこの橋の風景は、秋が深まる時期がとりわけ劇的だ。大雪の山々の頂に雪が降り始めるころ、三国峠周辺の木々も日毎に彩りを深め、冷涼な空気がその色合いを一段と引き締めていく。大自然が織りなす舞台の中で緩やかにS字カーブを描く松見大橋。その少し北側にある深緑橋からの眺望は格別だ。
 上川と十勝をつなぐ峠越えの道は大正時代から実現が望まれ、建設計画が策定されたものの、その時は戦争の影響で中止されたという。戦後、森林資源の開発などを目的に十勝側で林道が拓かれ、昭和30年代には深い樹海を貫く本格的な道路建設が層雲峡側からも進んだ。峡谷を越え、山を穿ち、北海道の屋根と言われる大雪山系の東側を走る「天空の道」。この松見大橋は1988(昭和63)年に竣工している。

 それにしても、原始の森の中に道を拓く労苦はいかばかりのものだったろうと、眺望に圧倒されながら改めて想う。険しい地形に加え、国立公園内ということもあって、工事には様々な配慮も求められたそうだ。

 橋長330㍍、高さ30㍍の松見大橋も、大規模な架設設備をつくることは好ましくなく、架橋にはトラベラークレーン工法が採用された。初めに端の橋脚を建てて橋桁を渡し、そこにクレーンを載せて移動させながら次の橋脚をつくり、それを繰り返していく工法。強度を保つトラス構造の上を道が走る上路ワーレントラス方式は、周囲の絶景を楽しむのにも適している。
 どこまでも雄大な樹海と、人間の技術の結晶でもある巨大橋。その鮮やかなコントラストは、絶景という言葉だけでは言い表せない迫力で、見る者に迫ってくる。

<交通アクセス> 深緑橋、三国峠
【車】 旭川中心部から約2時間(約100㎞)

 

文・写真
秋野禎木(あきの・ただき)

元朝日新聞記者/現北海道大学野球部監督
1959年生まれ、北海道小平町出身