圧倒的な花々の歓喜に囲まれて、なだらかな坂道を歩く。5月下旬、チューリップが満開となった国営滝野すずらん丘陵公園を訪ねた。
初夏の陽光を浴びた花々は眩しい生命感に溢れ、見るものの心を軽やかにする。花たちは、小さな魔法の使い手なのかもしれない。
年間に60万人前後が訪れるこの公園は道内唯一の国営の都市公園だ。春から季節の花々が一帯を染め、冬は歩くスキーのコースやファミリースキー、そりゲレンデが人々を誘う。今や海外からの観光客も多く足を運ぶ市内有数の行楽地である。
この地は明治の初頭、鬱蒼とした森林だった。樹種も多く、開拓使は「札幌郡山林ノ最タリ」と賞して「厚別(あしりべつ)官林」に指定、1879(明治12)年に2台の水車を動力にした器械所を設置して製材し、街づくりが進む都心へと木材を運んだ。札幌市時計台も豊平館も、この材木が使われたという。
器械所はほどなく閉鎖され、明治30年代には開墾も進んで小学校も出来るのだが、冷害が続くなどして人々は土地を離れてゆく。戦後の一時期は進駐した米軍の演習地として接収されるという歴史も刻まれた。
その後、再び果樹園などが出来たが、1971(昭和46)年に札幌市が山野を取得し、野外学習施設としてキャンプ場やロッジの整備を進めた。このころ、国営公園の適地を探していた北海道開発局がこのエリアに白羽の矢を立てて一帯を取得し、現在の丘陵公園への道が開かれることになる。
事業は1978(昭和53)年に始まり、5年後に川遊びなどができる「渓流ゾーン」の一部が開業した。さらに歩くスキーのコースやオートリゾートの整備も進み、カントリーガーデンやこどもの谷など、人々がくつろぐ中心ゾーンも完成、2010(平成22)年には、残っていた滝野の森ゾーン(西エリア)を最後に約400㌶の公園が全面オープンする。この面積は全国の国営の公園で2番目の規模だ。
整備の際にポイントとなったのは、自然をそのまま残すエリア、自然を生かしてそれを楽しむエリア、逆に、土木技術を駆使して人が利用しやすい地形に大胆に改変、造成するエリアを明確に分けた点だという。
土木工事といえば無骨で無機質なイメージを持たれがちだが、ここでは園路を緩やかな曲線にしたり、道路ののり面に丸みをつけ、また、園内の川に石積みの護岸を設けたりと、様々な配慮が凝らされている。整備中に植林された樹木も自然林のように成長し、時間をかけて自然と土木・造園技術の融合が進む。
チューリップの季節が過ぎれば、カントリーガーデンではラベンダーやヒマワリが丘を染め、秋が来るとコスモスが風と遊び、コキアが色づく。花々の魔法の舞台に、どこからか風に乗って、賑やかな子どもたちの歓声が聞こえてくる。
「生き物の巣」をイメージした遊び場 “こどもの谷”
冬は “そりゲレンデ” になる芝生スロープ(こどもの谷)
水遊びができる石積み護岸(一級河川厚別川)
<交通アクセス>
【バス】地下鉄南北線真駒内駅から「すずらん公園行き」約30分
地下鉄東豊線福住駅から「すずらん公園行き」約50分
【車】札幌都心部から約45分
文・写真
秋野禎木(あきの・ただき)
元朝日新聞記者/現北海道大学野球部監督
1959年生まれ、北海道小平町出身